目次
自治体のSNS活用目的は様々
TwitterなどのSNSアカウントは個人だけでなく、企業や自治体などでも開設することができます。
現在は各自治体でも「公式」のSNSアカウントを活用するのが当たり前になってきました。
各自治体でのSNS活用目的は様々ですが、多くは自治体に住んでいる住民向けに必要な情報を届ける役割を果たしています。
内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室が平成28年に実施した「SNSの防災活用に関する自治体WEB調査」では、2016年には53.6%の自治体がSNSを利用していることが明らかになりました。
もちろん、数字は2014年から右肩上がりに上昇しており、2021年現在はより多くの自治体がSNSを活用していることは間違いないです。
調査では人口の少ない自治体での利用割合が低いことも分かっていますが、当然と言えば当然の結果です。
スマートフォンなどの利用率が低い高齢者が多い自治体ではSNS導入のメリットが低いですが、調査が行われた2016年から5年が経過した今はスマートフォン・タブレットなど情報端末の普及率がさらに上がりました。
今では高齢者の多い自治体でも、SNSで情報発信することが決して意義の少ない事業とは言えません。
災害時の情報発信ツールになる
調査では多くの自治体が、SNSを防災情報など「情報発信」のツールとして利用していることが分かっています。
防災情報を迅速に届けるツールとして、即時性が高く、拡散力の強いTwitter(ツイッター)は非常に優秀なツールです。
東日本大震災など近年発生した多くの災害においても、SNSを利用したコミュニケーションが多くの方にとって心の支えや情報収集手段となっていたことが報じられました。
今後も災害など重要性・緊急性の高い情報発信において自治体のSNSが大きな役割を果たし続けることは間違いありません。
地域振興や観光用に活用できる
一方、SNSを防災情報発信などに用いず「地域振興や観光用に活用している」と回答した自治体も少なくありません。
防災情報などの発信は担当者が事実をすぐに投稿するだけなので、SNSの活用に「成功」「失敗」といった評価がなされることはあまり多くありません。
必要な情報がすぐに届けられず住民から不満が出るといったことはありますが、発進した内容が魅力的であったか、どれだけ多くの方が情報を高く評価したかといった点は深く考えなくても良い点です。
自治体のSNS活用の成功事例・失敗事例
- 観光
- 町おこし
- 災害時の情報発信
など、より多くの方に魅力的な情報を届けるために自治体がSNSを活用する場合の
- 成功事例
- 失敗事例
について見ていきます。
3万人以上のフォロワー数を獲得した葉山町の成功事例
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SNSを活用したPRが最も成功した自治体の一つとしてよく引き合いに出されるのは、神奈川県葉山町です。
葉山といえば湘南のビーチを想像する方が多く、従来から町の名前としては決してマイナーな自治体ではありませんでした。
しかし葉山町は自治体単独で見れば決して大きな町ではなく、人口は3万人程度です。
葉山町は観光・レジャー目的で来訪する方を増やすのではなく、町に移住してもらう方を増やすという明確な目的をもってインスタグラムでの広報活動を始めました。
移住してもらいたい若者に向けたアピールに特化するため、インスタグラムを選んだのも非常に良い着眼点です。
葉山町では海などの大自然、マリンスポーツの光景などをインスタグラムに投稿してきました。
自治体のきれいな景色をインターネット・SNSで公開するという手法自体は、決して目新しいものではありません。
しかし「若者」「移住」という大きな軸を持って戦略を立てインスタグラムに白羽の矢を立てたことが成功に導いた秘訣であったと言えます。
葉山町の公式インスタグラムは3万人以上、町の人口に匹敵するフォロワーを獲得することに成功しました。
フォトコンテストで多くのユーザーにアピールした下呂市
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岐阜県下呂市は、下呂温泉で知られる温泉街なので葉山町同様決して知名度の点で課題がある自治体ではありません。
しかし下呂市はインスタグラムを用いた先進的な取り組みで、さらに街の魅力をアピールすることに成功しました。
下呂市がインスタグラムを用いて行ったPRは、フォトコンテストです。
ユーザーから写真を投稿してもらう双方向型・ユーザー巻き込み型の成功例として注目すべき成功例です。
実はインターネット・SNSでフォトコンテストを開催したことがある自治体は下呂市だけではありません。
下呂市が成功した戦略としては、写真投稿のハードルを下げたことや上手なハッシュタグづくりが挙げられます。
下呂市がフォトコンテストにおいて訴えた文章は「#投稿しよう」「#キミの」「#とっておき」であり、どんな写真を募集しますという条件付けがありません。
名所をアピールしたい気持ちが強すぎて「名所をバックに撮影した楽しそうな家族写真を投稿してください」などと募集を絞ってしまっては、投稿自体があまり積極的になされないのも当然の結果です。
下呂市のフォトコンテストは誰でも気軽に投稿しやすいイメージづくりに成功し結果的に多くの写真投稿が寄せられる結果となりました。
コンテストの写真を見ても市内で撮影された何気ない花の写真などが非常に多く、ユーザーの多数が街で思わず撮影した何気ない写真を気軽に送っていたことが分かります。
「#gerostagram」という造語でハッシュタグを作ったことも大きく、独自性や頭に残りやすい響きといった点でほかの取り組みに比べ優れていました。
下呂市のフォトコンテストには応募開始から1ヶ月で1,000件以上、2021年2月現在のページを確認するとなんと6.576点の応募があったと発表されています。
ローカルな自治体の、しかもインスタグラム限定でのフォトコンテストで沢山の応募があるのはまさに快挙です。
巻き込み型のインスタグラム活用は、様々な手法が試みられています。
若者にインスタ講座を行った新潟市
まだ、絶大な効果が見られたというわけではありませんが、新潟市が行っている取り組みは非常に注目に値します。
新潟市はSNSの専門家を講師に招き若い方を対象に「インスタ講座」を行うことにしました。
「映える」写真を投稿してみたいと思っている若者は非常に多いので、インスタの効果的な使い方を教えてくれる講座は需要に応えるものです。
せっかく良い写真が撮れても、公開する場がなければ意味がありません。
新潟市では「#新潟グラマー」という新潟とインスタグラマーを組み合わせた造語のハッシュタグを作り、インスタのアカウントのがない方でも気軽に写真を投稿できる体制を整えました。
ユニークなハッシュタグ・ハードルの低い投稿が可能な点は下呂市の手法と共通しています。
公式ページで応募者向けに「撮影・投稿する際のポイント!」というコンテンツが用意され、応募のコツをわかりやすく紹介しているのもさりげない気遣いです。
地元の方が積極的にSNSで地元をPRしやすい環境を整える取り組みは非常に面白いです。
大々的に宣伝しているプロジェクトではなく、市民一人ひとりが市の魅力をアピールするのが当たり前になる、投稿を見て他地域の方が新潟に興味を持つというステップに至るまでにはまだ時間がかかる可能性が高いです。
現地で実際に暮らす若者目線での魅力発信に成功した島根県
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島根県の健康振興課は、公式Facebook・Twitter・インスタグラムとさまざまなSNSを活用し県の観光振興に役立てています。
島根県が採った大きな戦略は、地域の魅力を発信する担い手を島根大学の学生にするというものでした。
通常なら芸能人やインフルエンサーに依頼し県内各地の名所を巡ってもらうといった仕方でPRを考えてもおかしくないところ、かなり思い切った決断を下しました。
PRのポイントは、県の観光課職員などがPRしたい場所ではなく実際にPRを担当する学生自らが本当におすすめしたいスポットを素直にPRできる点です。
県の職員は当然学校を卒業している方ばかりなので、大学生世代の若い方の感性とまったく同じ見方でPRすることは難しくなります。
芸能人やインフルエンサーを前面に立ててPRをしても、PRするスポットが県の職員目線でおすすめしたい場所であれば若い方にアピールできないリスクも生まれます。
島根大学の学生が普段生活していながら感じる島根県の魅力・おすすめスポットを紹介できる企画は非常に斬新です。
「Be Move SHIMANE」という名前で始められた島根県SNS観光PR大使プロジェクトは非常に評判が良く、各SNSとの連携も非常にうまく機能しています。
島根で多くの方が連想されるのはパワースポットとして知られる出雲大社・世界遺産でもある石見銀山、カニや宍道湖のシジミです。
「Be Move SHIMANE」ではメジャーなスポットではなく、地元の学生だからこそ知っているSNS映えスポットなどを紹介してくれます。
若者世代に島根のイメージアップを図るという点でも非常に効果的だったSNSの活用事例は、ほかの自治体や企業にとっても参考になります。
沖縄県中城村の失敗事例
沖縄県中城村(なかぐすくそん)のSNS失敗事例は、かなり全国的なニュースとなってしまいました。
中城村は架空のキャラクター(バーチャル観光大使)を使って村の魅力を発信しようとしVTuberの「琉花(るか)」という女の子のキャラクターを前面に押し出します。
「琉花」が、Twitterで「#私の容姿が性癖に刺さる人に届いて欲しい」というハッシュタグを用いていたことが非常に問題視されました。
ツイートは外部委託の業者によってなされたものであり、県の担当者が直接つぶやいた内容ではありません。
しかし、中城村には多くの批判が殺到し、謝罪・投稿削除といった対応に追われることとなってしまいました。
村おこし事業が交付金を使用したものであったことも、「無駄遣い」という批判を招く一因となっています。
SNSを使った宣伝では自治体に限らず多くの方がイラスト・アニメーションといったツールを利用しますが、中城村の事例はいわゆる「萌え」による宣伝が一歩間違えれば炎上につながることを示すものとなりました。
特に現代は「差別」に対して厳しい目が向けられる世相もあり、年代・性別を問わずさまざまな方が閲覧するインターネット上で女性蔑視などと受け取られる内容の宣伝はすぐ炎上の対象となってしまいます。
萌えキャラの見た目で炎上した三重県志摩市
三重県志摩市では海女さんをモチーフにした萌えキャラ「碧志摩メグ(あおしまめぐ)」を発表しましたが、女性からかなり反発を呼びました。
事例では「#私の容姿が性癖に刺さる人に届いて欲しい」のように直接的に性を想起させる発言はなく謝罪・炎上という事態にまで至っていませんが、一部の施設ではポスターの掲示が取りやめられるなど不快感を示す方も多い事例です。
もちろん、起用するキャラクターが男性であれば良い、イラストではなく実在の芸能人・インフルエンサーを起用すれば良いというものではありません。
差別・搾取といった連想をされること自体が大きな問題であり、今後SNSでPRしようという自治体は過去と同じ失敗を繰り返さないよう注意する必要があります。
広まっていない多数のSNS活用失敗事例
SNSの活用に限らず、自治体の町おこしは成功すれば大きく取り上げられることもありますが、失敗事例はほとんど取り上げられることがありません。
SNSについて話題にならない自治体の多くは、まだ有効的にSNSを活用できていない、もしくは活用しようとしたが上手くいかなかったということになります。
自治体の多くはSNSの運営体制も模索しており、基本的に多くの行動に上司の決裁などが必要な役所と即時性が求められるSNSの相性が合わないと感じている方も少なくありません。
自治体によって運営体制は様々で、上司の決裁なく担当者がある程度自由に投稿・返信を行えるところもあれば投稿ごとに決裁が必要なところもあります。
しかし、SNSは投稿頻度が高いほうが有利で、投稿ごとに決裁を得るスタイルや複数の部署にまたがったプロジェクト型では届けたい情報を必要な時期に届けるのが難しくなってしまう課題が浮上するのは仕方ありません。
自治体ごと、担当者の裁量権をどの程度認めるのかというSNS管理・運営体制は今後の大きな課題点になります。
もちろん、投稿に対するリアクションが期待ほどではないという課題を抱える自治体も多いです。
バズるのではないかと自信を持って投稿した内容やキャンペーンが全くはまらないと嘆くのは、自治体の方に限った悩みではありません。
SNSの活用は失敗した後、何が原因だったのかをしっかり見極めることが大切です。
たとえばリーチが少ないという課題が出たのなら、そもそも検索に思ったように引っかかっていないといった原因が考えられます。
原因に合わせて試行錯誤を繰り返すことで情報発信力を上げ、SNSで成功を収めた組織・インフルエンサーは大勢います。
今までインターネットを活用してきた実績がないからとあきらめず、次の新しい一手を模索することが成功を生み出すのに必要不可欠です。
自治体のSNS活用でも基本は大切
自治体がSNSを活用するにあたっても、成功するにはまずSNSの基本を押さえていなければ話になりません。
特にインスタグラムでは、基本的な部分を大切にしている自治体が大きな成功を収めています。
絶対に押さえておきたいポイントをいくつかまとめました。
ビジネスプロフィール設定
インスタグラムは個人のアカウント、ビジネスアカウントという区分があり簡単に切り替えることができます。
ビジネスアカウントに切り替えると、アカウントにアクセスしてくれた方やフォロワーの属性などを見られるようになるのが大きな特徴です。
投稿した内容がどんな方に見てもらえたのか、すぐフィードバックを受け取ることができるので忘れずに設定しておくことがおすすめです。
エフェクト、フィルター機能の活用
インスタグラムは写真・動画を魅力的に見せることで利用者を伸ばしてきたSNSです。
エフェクトやフィルター機能というものが用意されており、写真をよりきれいに見せることができるところも大きな利点です。
しかし単に適当なフィルターをかければ良いというものではありません。
投稿したほかの写真同士の見栄えも考えたうえで、適切な色合いを投稿前によく吟味しましょう。
検索される可能性が高いハッシュタグを付ける
ハッシュタグを付けることは、より多くのユーザーに検索してもらうための基本です。
現在は何かを検索する際、SNSの画像や口コミなどを見たいときは最初からハッシュタグを付けて検索する方も多くいます。
ハッシュタグを付けるときは実際にユーザーが検索ウインドウに入力してくれそうな言葉を考えなければいけません。
位置情報の入力を忘れない
投稿ごとに必ず位置情報を入れるのは、インスタグラムの地域的なPRにおける最も基本的な事項です。
基本を押さえつつ、さらにフォロワーを増やしたい、より訴求力の高いコンテンツを作りたいといった場合にはコンサルティング依頼を出す手もあります。
ビジネスや自治体のPRで経験豊富なマーケティング会社、インスタグラムなど特定のSNSに特化したマーケティング会社もあるので各自治体の課題に対応する会社を検索することをおすすめします。
自治体の成功例は必ず事前の戦略を念入りに練っている
SNSで成功している事例で共通しているのは、どの自治体もやみくもに多数の写真や動画・ツイートなどを投稿しているのではなく事前に練られた戦略が非常に具体的であるという点です。
企業が出す広告などにも言えることですが、ほかの方にインターネット上で宣伝を行う際はPRしたい内容に加えターゲット層(どんな方に見てもらいたいか)やPRを見てどんな印象を持ってもらいたいかを考えなければいけません。
各自治体に景観のきれいな「名所」は存在しており、名所を写真・動画に収めて公開すること自体は簡単にできます。
しかし名所に有名な芸能人・インフルエンサーをモデルに招きPR動画を作成するとなれば、起用する方によって動画を見てもらえる方は大きく変わることは間違いありません。
地域出身の方だから、有名な方だからといって動画を見て欲しい層にアピールが届かない方を広告のモデルに据えると思った効果が得られない可能性が高いです。
双方向性を利用したSNS導入も増加
まだ全国的に広く導入されているとは言えない状況ですが、LINEなどの双方向コミュニケーションで住民からの相談を受け付けるといった試みもなされています。
熊本市はLINEを利用した悩み相談事業「ほっとLINE」というプロジェクトを立ち上げました。
LINEで児童・生徒からの相談に応え、いじめや不登校といった問題が深刻にならないよう防止することができるかという点が全国的にも注目を集めた事例です。
LINEを通した相談でも当然悩みを聞くのは人間の相談員で、事業には多数の相談員配置が必要となります。
事業は本格的な導入ではなく2週間の期間限定で行われましたが、結果を見ると多くのお子さんがほっとLINEにアクセスをしていたことがわかりました。
2週間で来訪した人数は254件であり、1日あたりに直すと18件ほど相談が寄せられていたことがわかっています。
相談員との間でトークが成立したのはそのうち177件、間違いだった件数も9件と比較的多く報告されていますが課題となったのは「無応答」が48件あったことでした。
「無応答」とは相談員が話しかけたものの、相手から返信が届かなかったというケースを指しています。
無応答の中には20分以上相談に訪れたお子さんを待たせてしまった例も多く、返事が遅く切れてしまった、待ちきれずに接続を切ってしまったといった事例が多いという課題も浮き彫りとなりました。
一方、実際に相談を寄せたお子さんからは「電話などで相談しにくいことでも話しやすい」など肯定的な意見も多数寄せられており、期間が短くもう終わってしまうのは残念という声もあがっています。
SNSは双方向性も大きな特徴ではありますが、Twitterやインスタグラムといったツールはどうしても情報発信が活用方法の中心になりがちです。
しかしSNSで住民や観光・移住目的で興味を持ってくれる方と双方向コミュニケーションを図る活用方法も、今後さまざまな手法が試され発展していくことは間違いありません。
福祉や教育などの分野に活用される可能性もあり、町おこしのイベント・ライブなどがSNSを通してもっと気軽に見られるようになっていく可能性も考えられます。
自治体においてインターネット・SNSを活用したいと考えている方は、今後の活用事例に関する報告にも注意深くアンテナを広げておきたいものです。